近代化遺産を巡る-山口市南部編後編
20.1Km
 大正通りを過ぎて県道335号を渡りそのまま進みます。300m程走り旧山陽道と交差する新丁地区の交差点に金物商と書かれた古色豊かな看板を掲げた金物屋さんがあります。この旧山陽道沿いに建っている藤本金物店は江戸時代創業の由緒あるお店で、建物も入母屋屋根、平入造りの純和風建築ですが、隣の建物と接する側の妻の部分がスパッと切り落とされて、棟飾り付きの赤レンガ製の立派な“うだつ”が建てられています。レンガは近代化遺産に良く見られるイギリス積みで、相当年月を経ているらしく、いい味が出ています。
近代化遺産に指定されている訳ではありませんが、レンガ製のうだつは非常に珍しいので紹介してみました。
藤本金物店
 旧道を通り小郡の中心部を抜けて国道9号を渡り、四十八瀬川沿いの道に入ります。のどかな川沿いの田舎道を走っていると程なく県道28号に沿って延びている山口秋吉台公園自転車道に合流します。
川沿いの自転車道を走っていると「小郡町上水道貯水池入口」と刻まれた石柱が建っています。後側には大正十二年三月と刻まれています。ここからでも桂ケ谷堰堤には行けますが、今回は別ルートを行きます。
石柱を過ぎて300m程走り左折して林道に入ります。林道に入ってすぐの所に桂ケ谷貯水池堰堤に行く山道の入り口がありますが、まずはそのまま渓流に沿って延びる林道を走り、羽根越貯水池堰堤を目指します。700-800m程走り宇部市域に入り少し行くと古びたコンクリート製の橋が小川に掛かっていて、そこから自転車を置いて徒歩で羽根越堰堤に向かいます。
滅多に通る人もおらず、消滅しかかっている小川沿いの山道を数分も進むと、正面の木立の間から古びた堰堤の壁面が姿を現わします。山の斜面に僅かに残った所々崩れかかった道をよじ登ると、ようやく羽根越貯水池堰堤の上部に到着です。
旧小郡町上水道貯水池入口
林道
この橋を渡って羽根越堰堤へ向かいます
 この羽根越貯水池堰堤は昭和3年(1928)竣工のコンクリート製で、ダム本体の重さで水圧をささえる重力式ですが、半アーチ式の構造も持っていて、昭和初期としては珍しい構造でした。堤長は44mで、写真で見て想像していたよりは小さく感じました。
堤上の取水塔は、羽根越川下流にある旧桂ケ谷接合井建屋と共通するデザインを採用しています。
大正期に建設された桂ケ谷貯水池だけでは小郡町の上水をまかないきれなくなった為この堰堤が建設されましたが、戦後、椹野川を水源とする大規模な上水道施設が建設され、羽根越堰堤は上水道施設としての役目を終えました。
水源地では無くなったものの、いまだに水をたたえ続けており、美しいアーチ状の堰堤は周囲の風景に溶けこんでいます。
羽根越貯水池堰堤
 林道を戻り、県道28号に当る少し手前に、鉄筋コンクリート製の古びた建物が建っています。これが大正12年(1923)建設の旧桂ケ谷接合井建屋で、大正期に流行した表現派の形態が取り入れられているとの事です。かつてはここに上水道の濾過池がありましたが、今では建設会社の資材置き場になっていて、この旧桂ケ谷接合井建屋も荒れ放題で放置されています。
この建物の裏側に木立の中に入っていく道が付いていて、そこから自転車を置いて桂ケ谷貯水池堰堤に向かいます。倒木の下を潜りながら人一人がやっと通れる様な細い道を登っていくと桂ケ谷貯水池の側面に出ますが、現在は水は上流でせき止められ干上がっています。
旧桂ケ谷接合井建屋
井建屋裏から桂ケ谷堰堤に向かいます
倒木を越えて進みます
 この赤レンガとコンクリートと石垣を組み合わせたアーチ形状の堰堤は、大正12年(1923)の竣工で、コンクリート重力式を採用しています。堤長は23.6mで羽根越堰堤の約半分の規模です。
後に建設された羽根越貯水池堰堤が全面コンクリート製なのに比べ、桂ケ谷貯水池堰堤は堰堤上部の高欄(欄干)と取水塔が赤レンガ製です。市松にレンガを積んだ高欄と、レンガを徐々にせり出させた蛇腹と呼ばれる装飾がアクセントになっている取水塔は、かつては水面にその優美な姿を写していたと思われます。すでに水がせき止められていたのは残念でした。
取水塔など煉瓦部分には落書きが多数刻まれていて、ここを訪れる人が意外と多い事が分かりますが、残念ながら荒廃しつつあります。阿知須の江畑溜池堰堤の様に文化庁登録有形文化財などには指定されていませんが、なんとかこの優美な姿のまま保存して欲しいものです。
四十八瀬川沿いに小郡に戻り、椹野川沿いの道を下って起点の河川敷公園に戻ります。

羽根越貯水池堰堤や桂ケ谷貯水池堰堤は林道からの道は消えかかっており、草木が繁る夏から秋にかけては、たどり着くのは大変かもしれません。
また、今回のコースは、林道の荒れた道を走ったり山の中の湿った道を歩いたりする為、ロードレーサーやビンディング式の靴は避けた方が良いでしょう。

桂ケ谷貯水池堰堤